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ここ数日、とあるIT系企業グループのエンジニアの退職者エントリ(同時多発)がエンジニア界隈で話題でした。
一連のブログやらツイッターやらを眺めていると、
といったことに話題が集まりやすいようです。(他の視点ももちろんあるけれど)
発端となったらしい、6年勤めたNTTを退職しましたというブログにも、
という2つの理由が書かれています。
年収はさておき、2については、セキュリティを意識しすぎた厳しい制限と、(ブログ筆者の環境のことではないようですが)PCのスペック不足について言及されています。
しかし、件のソフトウェアエンジニア(研究者)の転職の動機、問題の本質(の一つ)は、その退職ブログのこの一文にちゃんと書いてあります。
これほど低レベルのITリテラシな人間が実権を握り経営判断をしているという状況への絶望のほうが退職するにあまりある動機となった。
そう、本来注目すべきはこの一文のほうでしょう。繰り返しますが、エンジニアのデスクにあるPCのスペック不足など、真の問題の本質が表面化した事象の一つに過ぎません。エンジニアあるいは研究者としての職業倫理と守秘義務に反しない程度にブログやツイッターに共通の話題として書ける数少ない事柄だから、目立つだけです。
さて、退職ブログの筆者さんの、上記のような心境に、私も覚えがあります。
昔、私が在籍していたのは典型的なSIerでした。(2社)
SIer時代の私はいろいろなタイプの現場、仕事をこなしましたが、ある時期、開発環境(Eclipse)、CI環境(Jenkins)、ビルドツール(maven)、そして初期のソースコードツリーを状況に合わせて調整しながら開発プロジェクトの立ち上げを手伝う、みたいなミッションが中心となった時期がありました。
実際の開発プロジェクトの現場では普通のPC(もちろんややスペック不足 笑)が配布されていましたが、私はいわば時々そこに出入りするだけの助っ人のような立場なので、月の半分くらいは自分の所属部署のビルにいて、様々な現場に持ち込むためのコードと開発環境の調整が主なタスクとなります。
問題は、自分の所属部署は「実際のソフトウェア開発プロジェクトの現場ではない=そういう意味では人事や労務のような間接部門と同じ扱いだよ」という理由で、標準機材は普通のPCではなくシン・クライアントだったということです。
VMWareだったかCitrixだったか忘れましたが、自分のWindows環境はマシンルームのサーバ内部の仮想OSとして提供されていました。もしかしたら当時流行ったブレードサーバ的なハードウェア(もしそうなら仮想OSではないかも)だったかもしれませんが記憶が定かではありません。
Thin-Clientとよばれる小さな弁当箱のような筐体とそれにつながったディスプレイとキーボードで、N/Wの向こうにあるWindows7にリモートデスクトップして仕事をするわけです。USBキーボードやマウスは認識しますが、USBメモリを指しても認識しませんからセキュリティは万全(?)という寸法。
しかし、ブラウザとOffice製品で仕事することを想定した間接部門向けの仮想OS環境で、Eclipseや、そこで開発するJavaソースコードツリーや、バックエンドのRDBMSまで、場合によってはJenkinsも動かすことを想像してください。
ええ、CPUもメモリも不足でまともに動くわけがありません。
以下は設備担当者(?)とのやりとり。
私「仕事になんないんだけど」
設「ここでは、必要なPCは支援先のプロジェクトの現場にあるものを使えばよい、ということになっています」
私「私の仕事がなんなのかわかっててそれ言ってます?」(という趣旨のことをもう少しお上品に申し上げた)
設「........」
一連の流れを上司ももちろん知っていますが(以下オトナとして自粛)。
数日後に、スペック不足の普通のPC(それでもシンクラよりはずっとマシ)が私に届きました。さらに数週間後、なんらかの表彰だったか報奨だったかは忘れましたが、好きなものを数万円分調達してよいと言われ、SSDを買ってくれ、と言ったら届いたので、自分のPCに組み込みました。それでようやく、そこそこ仕事ができる状況になったわけです。
自分だけは。
数名の後輩くんは相変わらずThinClientしかないので、開発環境とはなんぞや、実際の現場ではJenkinsをどう使うか、みたいなことを教えることすらままなりません。
私が転職した後、私のPCは後輩くん達が奪い合いになり、必要に応じて各自のThinClientから私のPCにRDPで繋いで順繰りに共有しながら使うことになったそうです。ちなみに私が所属していた部署(そこそこの大人数が在籍)の名前は「ほげほげ技術部」でした。技術とは?
ここで、某氏の退職ブログの一文を、もう一度ここにコピペしておきます。
これほど低レベルのITリテラシな人間が実権を握り経営判断をしているという状況への絶望のほうが退職するにあまりある動機となった。
さらに、もう一度同じことを書いておきます。
「IT系企業のエンジニアのデスクのPCのスペック不足など、真の問題の本質が表面化した事象の一つに過ぎない。」
現在の私の席の開発環境がこちら。
左がiMacProメモリ32G 右がMacBookProメモリ16G。弊社のエンジニアとデザイナーのPCがすべてMacBookPro(その当時から16Gメモリ)になったのは2015年初め頃からですが、2018年の春からはiMacProも支給されるようになりました。その経緯は各所で公開されていますが、代表的な記事を2つ紹介しておきます。
ところで、なんで珍しくこのブログを更新しているかというと、JJUG-CCC-2018Fallの登壇の資料を作らなきゃなのに現実逃避しているだけです。
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追記: このエントリの公開当初、iMacProのメモリが64Gと書いてましたが32Gの間違いでした。たまたま"このMacについて"を見てコーヒー吹きました。お詫びして訂正いたします。